そんな触れ込みからアルバムを再生した時のことをよく覚えている。第一感はもちろん「Hallogallo、すげぇ……!」だった。そしてそれ以上に思ったのは、「ディスクガイドたちの評、ほぼHallogalloのことしかふれてねぇ!!!!」だった。
ふつうにこのCDを中古で、中高生にとっての1500円で買った時、当然ながら1曲だけでなく1枚を飲み込もうとするのだ。そこで襲い掛かるのは、ハンマービートなどかけらもない、金属的なノイズで埋め尽くされた2曲目「Sonderangebot」である。そして最後に迫りくるは、これを商品としてリリースしたことの正気を疑うボーカル曲「Lieber Honig」である。
本収録曲は大きく以下のグループに分けられる。
反復:tr.1, tr.3, tr.5
音響:tr.2, tr.4
何?:tr.6
反復と音響が交互にきて、最後に謎のエンディングを迎えるアルバムだ。
サブスク環境になったいまどう聴かれているかは分からないが(それこそ、プレイリストにHallogalloだけが放り込まれているのかもしれない)、紙面の文字制限を気にしないならふれるべき点は数多い。
まず、本作の演奏メンバーが2人だけというのは特筆すべき点だ。
首謀者はMichael Rother (ミヒャエル・ローター)と、Klaus Dinger(クラウス・ディンガー)。ざっくりいうと、Gt./Ba. ミヒャエル・ローターと、Dr. クラウス・ディンガーのリズム隊がまずあり、ウワものは両者で乗せている座組だ(特に印象的な音色は、主にバンジョーによるものである)。つまり、Gt. Ba. Key. Dr.の──CANのような──多角的なぶつかりあいではない。それぞれの楽曲がどちらの嗜好だったのかは、今後の作品が明らかにしてくれる。
tr.1 Hallogallo
この曲の偉大さはいくらでも語られているから、自分が受けた感銘を端的に2点書き出しておこう。
1つ目の感動は、これがある種の「テンプレート」であることだ。Hallogalloの領域に至れるかはともかく、適当なドラム音源にて所定のエイトビートを書き出し、ンデデッ・デデッデとベースを置いて繰り返すと、それだけでかなり”らしく”なる。この再現性が本当に素晴らしいと思うのだ。そして2つ目は、そこに「カッカッ・・・」とただ思うがまま刻むだけのギターを乗せると、何故か魅力が倍増するという大発見。これはもう、ぜひ一度ギターを持ってやってみてほしい。この面白さだけで生きていける気さえするから(ちなみにStereolabもこれをまさに演っている。)。
「反復」を代表すると書いたが、打ち込み以降の現代で想定する反復……つまりドラムマシーン的な「ループ」では全くない点は、いま注記してもいいかもしれない。聴けば分かるが、かなりフィルも入れまくっており、全体的に前傾姿勢が伺える、むしろ明らかに人間的なグルーヴである。批評家がその機械的な動きを連想して名付けた「モータリックビート」という呼称を、本人は否定している(その点で、カンカンカンと打ち付ける様だけを抜き出した「ハンマービート」という日本名称は良い線をいっていた)。だからやはりここは、正しくそのビートを形容したほうが良いだろう。本人の弁を引こう。
「それは本質的に人生、つまり動き続け、前進し、動き続けることについてのものだ」
The Independent
tr.2 Sonderangebot
Hallogalloとまったく異なる、不穏なテープコラージュから金属的な音響を収めた実験的な一曲。1曲目との落差もあって当時は理解できなかったが(次の曲の前座と思ってました)、今聴くとかなり鋭い音でカッコイイ。Radian『Rec.Extern』にいても違和感がないかもしれない。
ちなみにタイトルの意味は「特売品」。ジャーマン・センスを感じる。
tr.3 Weissensee
前曲のノイズを引き継いで始まるバンド演奏の反復曲。ベルリン北部に実在する湖の名を冠しており、BPM60程度のスローグルーヴ、ミヒャエル・ローターの揺らぐギター、Ⅰを一定数繰り返してはⅣに飛び立つコード進行全体が、穏やかな水面に時折ひろがる波紋のような風景を連想させる。名曲。アナログ時代、A面を締めるのはこの曲だった。
tr.4 Im Glück
フィールドレコーディングとドローンで構築されたアンビエント。Brian EnoがObscure Recordsを立ち上げたのは1975年、『Ambient 1: Music for Airports』を発表したのは1978年だ。本作が1972年発表であることの意義は、こちらが思う以上に大きいはず。
あまりに予想外なのは、本作の50周年記念盤にて、USインディの大御所The Nationalが本曲のRemixを手掛けた点である。ここでは原曲の音を踏襲しつつ、大胆にビートを導入することで「いかにもNeu!」という形に”戻して”いる。面白いリスペクトだと思う。
tr.5 Negativland
けたたましいノイズで始まるが、そこからバンドが入ってくるので、インスタ的にスキップしないでほしい。イヤホンで聴くとよく分かるが、めちゃくちゃ生演奏の手つきのベースである(録音の繋ぎ目も多分あり、例えば2:42で違うテープに移している気がする)。なので個人的にはこの曲はまずもってリズム隊を聴く1曲だ。この反復の感触に、The Velvet Undergroundを浮かべる人も多いだろう。
ちなみに本曲はIDLESがRemixしており、こちらはThe Nationalとは逆で、本作で言うとtr.2、つまりノイズやコラージュの音響アプローチに寄せることで、「これもNeu!だろ?」という形に”戻して”いる。図った訳じゃないだろうが、両者の対比が見事だ。
5:00からはギターのスケール(モード)が変わり、さらにワウなども入り込み、ドラムもプレイを変えだし、テンポもどんどん切り替わる。セッション内容的にもこのアルバムの中で一番CANに近い曲であり、そして一番大きな違いは、ここに「異分子となるボーカル」が存在しないことである。
tr.6 Lieber Honig
その代わり(?)、Neu!では最終曲にボーカルが登場する。素直に書くと、初めて聴いた時「Hallogallo以上に衝撃をうけた」のはこっちである。
ぜひ聴きながら読み進めてほしい。
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イントロはかなり期待させる(この時点で少しぎこちないが……)。フレーズ感は違うものの、もしかしたらTortoise「TNT」のような名曲が展開される可能性を秘めてそうだ。しかしそこに”吐息”が襲いくる。
あまりにボーカルが下手。下手というか、「ふつうこんなボーカリストもこんなテイクも採用しないだろ」という出来栄えである。「勘違いした配信者のASMR」みたいな吐息である。ちなみにDr. クラウス・ディンガーの声である。
この衝撃がバカデカかった。何しろ同時期にCANを聴いていた自分にとっては(ファースト、マルコム・ムーニーの方だ)、「クラウトロック」=「反復」の図式以上に、「ヤバいボーカルを採用してくる奴ら」の印象が根付いたのである。
しかして聴き進めていると、そんな事をしているのはどうやらCANとNeu!だけだった。つまりは、クラウトロックの中でも「バンド演奏」しつつ「既存の音楽」を再構築しようとしていたバンドだけである。そこで自分はもうひとつの解に辿り着いた(ことにした)。あえてバンドに”西洋音楽領域外”の異分子を組み入れることの重要性。そしてこの視点の獲得が、例えばSonic YouthのKim Gordon曲への視野を広げてくれたのだけど、それはまた別の機会にでも。
たしかにクラウトロックを、「反復」を、ハンマービートを代表する一枚である。しかし、本作にはもっと無限の可能性がある。クラウトロックと括られたアルバムたちは、どれもみな、一言で言えない、分かりづらさ、つまりは可能性を宿している。ぜひとも、アルバム一枚で飲み込んでみてほしい。そしてセカンド以降も手にしてみてほしいのだ。
『Neu!2』に続く。