音楽

The Notwist『The Notwist』

The Notwist『The Notwist』

基本情報

  • 発売日:1991年1月
    • ロックの伝説たる1991年リリース組、とは言える。
  • ディスコグラフィ:1stアルバム
  • 一般的な評価:現在と全く違う姿、ほぼ取りあげられない
    • Radioheadと並び、Anticonレーベルと絡んでいった2000年代からの姿とは対極の、「ハードコア・パンク」+「メタル」バンド
    • 今The Notwistを聴く、といった時もっとも後回しにされるだろう時期の作品
    • サブスク環境が整い、2021年リマスタされたので、今はファンなら手を出すはず
    • そして面食らうはず
    • しかし色眼鏡を外してみれば、あの頃90年代の掘り出し物バンドの音源としても聴ける強度あり
    • ちなみに当時のバンドメンバー3名は本作から『Neon Golden』までずっと一緒。この音楽性の変化で!?



トラックリスト

評価は黒字 < 太字 < 赤字 < 赤太字
下線付きはリードトラック、★付はベストトラック

# 曲名 作詞 作曲 編曲 プロデュース 時間
1 ☆Is It Fear? Markus Acher Markus Acher The Notwist The Notwist(?) 3:10
2 Bored 〃 〃 〃 〃 2:41
3 Winter 〃 〃 〃 〃 3:20
4 Crack It Open 〃 〃 〃 〃 2:35
5 Be Reckless Micha Acher Micha Acher 〃 〃 1:41
6 K Das Devil 〃 〃 〃 〃 1:16
7 One Wasted 〃 〃 〃 〃 3:26
8 Agenda 〃 〃 〃 〃 2:34
9 I've Not Forgotten You 〃 〃 〃 〃 2:58
10 M. Del Terror 〃 〃 〃 〃 1:42
11 ★Seasons 〃 〃 〃 〃 3:34
12 Think for Yourself 〃 〃 〃 〃 1:29
13 ☆Nothing Like You 〃 〃 〃 〃 3:55
Review 74 / 100

Tortoiseがハードコア出自メンバーが集まったバンドだったように、The Notwistも最初期はハードコア・パンクを鳴らす、騒々しいライブハウスのロックバンドだった。1990年には既に、かのThe Jesus Lizard、Bad Religionとツアーに出ていたと記録されている[1]。

ここから10年後の彼らが、Radiohead『Kid A』と並び称される2000年代インディロック/エレクトロニカの名盤『Neon Golden』を発表するとは誰も思わないだろう。もし仮に、The Notwistを未聴でこの記事を開いた方がいたなら、代表作『Neon Golden』か、ライブアルバム『Superheroes, Ghost-ViIIains + Stuff』か、あるいはキャリア総決算となった最新作のどれかを聴くよう全力で推しておこう。

しかし楽曲には強度がある。何曲か取りあげてみよう。

tr.1 Is It Fear?

当時の彼らがどういうロックバンドだったかを一発で示す曲。タメの効いたメタルリフから急加速でハードコアパンクに雪崩れ込み、再びリフに戻る。色眼鏡を外して聴けば、ふつうにメッチャカッコイイバンドである。特にアウトロで入ってくる、明らかに音量ノブを回し過ぎなギターソロの入りはにはトばされる。

しかし、この音楽性を鳴らすには致命的に声が細い。そこに自分は、スピッツ『惑星のかけら』に近いものを見る。

tr.2 Bored

次の曲も素晴らしいギターフレーズが聴ける。高速ツービート、変拍子によるキメと、本当に微笑ましいくらい「あの頃」。

だがシャウトが細い。ハイに綺麗に通った騒々しい声でもなく、すこし膨らみ過ぎで、ちょっと優しすぎる。FugaziのGuy Picciottoが歌えばハマりそうだが、それは贅沢すぎる悩みだ。

・・・・・

こうした印象は以降の曲も大きくは変わらない。tr3.「Winter」はベースの録音もバキバキでよりハードだが、その演奏のたくましさに声が微妙にマッチしていない。一方で、マイナーキーのメロディは、BPMを落とせばそのまま今のThe Notwistに繋がるものに仕上がってもいる。

全体的にボーカルメロディよりは「演奏」をハイライトにしようとする曲構成が多く、実際、自身の声にそれほど自信がなかったのではと想像する。tr.6「K Das Devil」のリズム隊はアルビニ録音のような出音で滅茶苦茶クールなのだが、これはデモを広げられなかったのか1分少々で終わってしまう。

歴史に残るには何かあとひとつ足りない気がしてしまうが、聴いていてギターをバンドを演りたくなる勢いは満ちている。

・・・・・

「ドイツのDinosaur Jr.」とか

何曲かで連想するのは、Dinosaur Jr.である。ハードコアパンク+メタルにユルめのボーカルの組み合わせもだが、例えばtr.5「Be Reckless」では突然キレたギターソロが入ってくるとか、目標にしたというより、「出来ることが似ていた」ような近さがある。Markus AcherはNeil Youngをカバーしているので、自身の声と音楽性についてJ. マスシス同様に支えになっていたのではと想像する。

PopMattersのレビューにて「誇らしいAnthrax」と評されている、一際冴えたメタルリフを携えたtr.9「I’ve Not Forgotten You」を聴いてみよう。これもスパーンとテンポを上げていくが、Hüsker DüとDinosaur Jr.の間を行くような疾走感だ。そしてやはりシャウト、より次の地声への落差に驚きが来る。Cloud NothingsのDylan Baldiを浮かべる人もいるんじゃないだろうか。

このギターロック路線では、tr.13「Nothing Like You」がハイライトのひとつだろう(ちなみに執筆時点で本アルバムの最多再生トラックはこの曲)。アルバムのクロージング。ここでの彼らは、控えめに、はにかむようにノイズを鳴らして締めたりしている。この姿勢が今後の彼らをほんのちょっぴり示唆していると、後追いからは見える。定型的な、大文字の「ROCK」的カタルシス──彼らの中では恐らく、当時吹き荒れだした「グランジ」も同じ仲間に見えだしていたはずだ──からの離脱。


tr.11 Seasons

もろもろの話はさておき、本作で自分がベストトラックに挙げたいのは、ファーストのCloud Nothingsくらい真っすぐなギターロック「Seasons」である。間奏、ライドシンバルからギターが左右を平行線に走りだし、ひとりが泣き出したところもう一人も追走していく間奏が素晴らしい。

結局こういうのが一番好きというか、こんな曲が書けるんだから、この路線でバンドが続いていく未来もきっとあったと想像してしまう。


・・・・・


あらためて思うのは、ハードコアとは「スーパーノバ」だったということだ。その爆発は、じっくり時間をかけて世界を余波で覆い、違う景色をもたらしていった。

ここに録音し残されているのは、「俺たちもバンドを演るんだ!」と思ってとりあえず飛び出した、無軌道で実直なハードコア・パンクの素晴らしい記録だ。それは1990年前後の、オルタナ・インディの美しい原風景でもある。そしてそこに立ち止まらず、自身のけもの道を進もうとしたバンドが、The Notwistとして今ここに存在している。

最後に、今更ながらThe Notwistのメンバー紹介をしておこう。Gt. vo. はメインコンポーザーのMarkus Acher。Ba.は兄弟のMicha Acher、Dr.はMartin Messerschmid。バンドの音楽性は激変していくが、この3名はこのまま『Neon Golden』(‘02)、さらに言えば『13 & God』(‘05)まで共に歩みを進める。本作に宿る一番の奇跡は、その事実かもしれない。

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