The Notwist『Shrink』
基本情報
- 発売日:1998年5月15日
- 前年1997年に別プロジェクトTied & Tickled Trioでジャズに接近
- ディスコグラフィ:4thアルバム
- 前作でゲストサンプラーだったMartin Gretschmann((aka Console and Acid Pauli)がバンドメンバーに正式加入
- 一般的な評価:「隠れた金字塔」の評価
- 本作にてStereolabから賞賛を得る
- バンド自身も「初めて自分たちがやりたいことが出来た」と回顧
- 本国ドイツで初チャートイン(#49)
- 批評誌ではNME、Pitchforkがレビュー
- ドイツの音楽メディアlaut.deは2020年に「金字塔(Meilenstein)」と選出
- 『Neon Golden』同様、『Kid A』の2年前にこの音という文脈で語られることも多い
トラックリスト
評価は黒字 < 太字 < 赤字 < 赤太字
下線付きはリードトラック、★付はベストトラック
| # | 曲名 | 作詞 | 作曲 | 編曲 | プロデュース | 時間 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | ☆Day 7 | Markus Acher | Markus Acher | The Notwist | Olaf Opal, Mario Thaler | 5:55 |
| 2 | ★Chemicals | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 5:15 |
| 3 | Another Planet | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 4:30 |
| 4 | ☆Moron | ― | Micha Acher | 〃 | 〃 | 4:46 |
| 5 | Electric Bear | 〃 | Markus Acher | 〃 | 〃 | 4:28 |
| 6 | No Encores | 〃 | Martin Gretschmann | 〃 | 〃 | 4:25 |
| 7 | N.L. | ― | Micha Acher | 〃 | 〃 | 5:36 |
| 8 | Shrink | 〃 | Markus Acher | 〃 | 〃 | 4:24 |
| 9 | Your Signs | 〃 | Micha Acher | 〃 | 〃 | 6:46 |
| 10 | 0-4 | ― | Micha Acher | 〃 | 〃 | 2:19 |
1997 - 1998年はポスト・ロック~エレクトロニカ史において非常に重要な年である。前年にはStereolab『Dots and Loops』、Mouse On Mars『Autoditacker』。Squarepusher『Hard Normal Daddy』がいる(すこしそれると、Radiohead『OK Computer』、Björk『Homogenic』もいる)。そして1998年に、Tortoiseが『TNT』を、Autechreが『LP5』を、To Rococo Rot『Veiculo』が、Gastr del solが、(Massive AttackがBoards of Canadaが)……とキリがない。その中に、この一枚を加えておきたい。あらかじめ断言しておくが本作は傑作である。
デビュー当時の音楽性をふまえると、The Notwistがこのメンバーに並ぶことは想像出来ないが、そこには確かな軌跡がある。前作『12』にて広がった音楽性を、彼らは更に突き詰めた。大きなトピックは3つだ。
まず、前作で「ゲストサンプラー」として参加したMartin Gretschmannが、サンプラー・プログラミングメンバーとして正式加入した。この名前だと馴染みがないかもしれないが、Console、Acid Pauli(近年はFRUE Festivalとも非常に関係が深い)と見ればハッとするはずだ。当時の彼の代表作は、4か月遅れてリリースされたConsole名義の2nd『Rocket in the Pocket』。同作は2年後の2000年、Matadorからリリースされる。The Notwistが本格的にエレクトロニカを導入したのだ。
次に、別プロジェクトTied & Tickled Trioでのジャズへの接近。このプロジェクトにはThe NotwistのAcher兄弟と先のMartin Gretschmannが参加している。作品棚にはMorr Musicの紹介文リンクを沿えたので参照してほしい。個人的にはシカゴ音響派、Isotope 217らとはまた違うジャズの再発見……いうなれば「音響とダブによってジャズを再構築した作品」を感じる。このTrioの参加メンバーの多くはそのまま『Shrink』に参加している(Rec. Mixも同じくMario Thaler)。ここにWeilheim人脈、uphon-Studioを見出して掘り進めることもできるが、ここでは『Shrink』の話を続けよう。
そして最後に、前作で録音・ミックスを担当したOlaf Opal, Mario Thalerの2人が、プロデューサーとしても全面参加した。ブレインの加入だ。いうなれば本作は、The Notwist (with Olaf Opal, Mario Thaler) + エレクトロニカ(Martin Gretschmann) + ジャズ(Tied & Tickled Trio)が交錯して生まれた作品である。いかにも1998年らしい立ち位置の景色だ。
前置きが長くなってしまったが、その内容を聴いてみよう。
エレクトロニカの配合
覚醒の名曲1。Gretschmann参加の影響は明らかで、ビブラフォンとサンプルをミックスした呪術的なループがオープニングに据わっている。モノクロームの色彩はくすんだギターとライド・リムによって滲みだす。2分半さまよったあと視界は急に開ける。低体温な歌と太く歪んだベースライン。追走から一気に現実に引き戻されるような感覚。「Dinosaur Jr.がAutechreに衝突したような曲」とはlaut.deの評である。
The Notwistの、こういう淡々としつつキャッチーなメロディが大好きだ。「デイセブン」。3:20より現れる、イントロのメロディを引き継いだ淡いキーボード(個人的にはbloodthirsty butchers「プールサイド」のアウトロが浮かぶ)。インディロックとエレクトロニカの最良の融合じゃないだろうか。
岸辺──
ここから岸辺が見える
君の町、君の家、そして君の姿が見える
数は──
君の名前の文字を数える
君がまたここに来るまでの日数を
7日目
僕は数えきれないほどの愛で溢れている
名曲2。グリッチの導入が早い。マーカスが書いた中でも屈指のメロディだと思うが、ビートの上、この歌をエレクトロニカとして処理したあと、ギターバンドとして融解する。淡い感触。Album Leafもホリエアツシのentも、こういう曲を作りたかったんじゃないだろうか。後半の、知らない何処かへとチューニングを合わせようとするようなボヤけたギターソロが美しい。r.e.m.『Up』に通じる世界だ。次作『Reveal』収録「Imitation of Life」の間奏も思い出す。
・・・・・
ここまででも大胆な電子音楽の導入が聴きとれる。tr.3「Another Planet」はこれまでのバンド形態に近く、tr.6「No Encores」は宅録風のギターから始まるが、どちらもかなり乱暴に上から打ち込みとグリッチを重ねている。この剥き出しの配合がクールだ。特にtr.5「Electric Bear」は、リズムはブレイクビーツに近いが(一部はPortishead「Sour TImes」を連想する)、音色が独特。このあたりがのちのanticon.にも繋がっていくように思う。アウトロ、パーカッションとギターが不協和音を奏で始めるシーケンスの緊張感が素晴らしい。ギターコードはSonic Youth的だが、この質感はThe Notwist独自の世界だ。
・・・・・
ジャズの配合
こちらの方面で特筆すべきは、作曲クレジットが「Micha Acher」である点だ。彼はホーンセクションのスコアも担当している。本作が見通しやすくなるので、あらためて作曲クレジットを羅列しておこう。
Markus Acher:Day 7、Chemicals、Another Planet、Electric Bear、Shrink
Micha Acher:Moron、N.L.、Your Signs、0-4
※Martin Gretschmann:No Encores
つまり明確な歌ものはマーカスが、ジャズサイドの楽曲はミヒャが担当している。
ジャズ側の配合も強烈だ。クラウトロックを思わせる反復ビート、ツインギターに近い掛け合い、Tied & Tickled Trioにも登場したベースクラリネットとホーンの立体的なスコアと、かなりカッコイイ。サックスソロに合わせてブレイクビーツ化する展開センスが最高。
乾いたクリーントーンのアルペジオのフレーズアイデアが浮かび、先の「Moron」と同様にスコアを書いて完成したと想像する。まさに「ポスト・ロック」的な、聴いていて情景が浮かんでくる楽曲だ。中盤から、灰色に塗りつぶすようなインダストリアルのノイズギターが加わり、後半、フィルターがかかって全てが遠く褪せていくサウンドスケープが美しい。
「ジャズの影響を感じさせるポスト・ロック」というとTortoiseやIsotope 217がまず頭に浮かぶが、この言葉からストレートに連想する音楽はむしろこういう曲じゃないだろうか。Key=Dmで進行していき、中盤(3:20~)から短三度上のKey=Fmに転調する(Key=Dmの平行調F majの同主短調)。
①Dm→Dm→B♭M7→A→Dm…
②Fm→Fm→D♭M7→C→Dm…
シンプルな移調だが、移調後の②もDmに着地するのが非常にクールな響きだ。
Swingすることもない、ロック流儀のバンドサウンドのまま長尺のサックスソロをフィーチャーし、アルバムはこのままClusterに先祖返りしたようなインスト「0-4」で幕を閉じる。
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The Notwistの代表作が『Neon Golden』なのは間違いない。それは様々な音楽的文脈をまとめあげた、歌ものとしての完成度が高い名作だ。一方で『Shrink』は、その混ざり方が正しいのか分からない荒々しい魅力がある。様々なジャンルの境界が融解しつつあった1998年にリリースされるべくしてリリースされた傑作だと、あらためて断言しておこう。それは様々なものが──ジャンルが、時代が、異なる素養をもったメンバー同士が混ざり合ったことで生まれている。この世にはもっと、The Notwist『Shrink』を目指すミュージシャンが増えるべきである。
バンドの、控えめだが充実感に満ちた回顧を引いておこう。
『Shrink』の制作を通じて、僕たちは初めて、音楽的に「自分たちがやりたいこと」をある程度反映できたという実感を得たと思う。まさにTortoiseやStereolabの音楽のように……まあ、あれほど素晴らしかったとは言えないかもしれないけど、とにかく『Shrink』のレコーディングが終わった後、僕たちは皆、とても満足していたんだ。
そして時代は世紀を跨ぐ。ファーストアルバムからおよそ10年が経過し、その道筋からついに彼らは『Neon Golden』に至る。
(続)
The Notwist『Shrink』(LP)
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