音楽

The Notwist『Neon Golden』

The Notwist『Neon Golden』

前作は『Shrink』。

基本情報

  • 発売日:2002年1月14日
    • 欧州はCity Slang、米国はDominoという最強布陣
    • 制作ブランクは4年弱だが各自は盛んにソロ活動
    • 録音は2000年後半から15ヶ月にも及んだ
  • ディスコグラフィ:5thアルバム
  • 一般的な評価:2000年代の名盤、自他共に認める代表作
    • まずもって自分が名盤だと思うが
    • 客観的には、Metacritic[89]
    • Pitchfork[9.2]、2000年代ベストアルバム200選#131
    • Drowned in Sound[10/10]、Village Voice誌年間#33
    • ドイツではチャート最高10位と、確固たるヒットも記録
    • 収録曲のいくつかは後にドラマや映画の挿入歌・主題歌に使用されるなど浸透
  • 統一感に反して作曲クレジットは最も複雑で、3者が入り乱れる



トラックリスト

評価は黒字 < 太字 < 赤字 < 赤太字
下線付きはリードトラック、★付はベストトラック

# 曲名 作詞 作曲 編曲 プロデュース 時間
1 One Step Inside Doesn't Mean You Understand Markus Acher Markus/Micha The Notwist Galore(Olaf Opal, Mario Thaler) 3:15
2 ★Pilot 〃 Markus/Micha/Gretschmann 〃 〃 4:28
3 Pick up the Phone 〃 Gretschmann 〃 〃 3:55
4 Trashing Days 〃 Micha Acher 〃 〃 3:24
5 ☆This Room 〃 The Notwist 〃 〃 4:45
6 Solitaire 〃 Gretschmann 〃 〃 3:29
7 One with the Freaks 〃 Markus Acher 〃 〃 3:38
8 Neon Golden 〃 Markus/Micha 〃 〃 5:54
9 Off the Rail 〃 Markus/Micha 〃 〃 3:27
10 ☆Consequence 〃 Micha Acher 〃 〃 5:13
Review 92 / 100

前作『Shrink』は主に自分が推薦する傑作だった。本作は自他共に認める「名盤」である。The Notwistを初めて聴く方にも、本作、あるいはライブアルバム『Superheroes, Ghost-ViIIains + Stuff』を薦めたい。魅力はこの一枚で十分伝わると思うが、ここまでの彼らの軌跡、周辺リリース作を踏まえるとより味わい深くなる一作でもある。

本作『Neon Golden』は2002年発表なので、数字だけ見ると4年の空白があったように見える。が、前作にて「音楽的到達を初めて感じられた」彼らは、その経験値をソロワークスや多方面に展開していった。詳しくは作品棚に置いておくが、簡単に並べると、マーカスがBa. Keyで参加したバンドLali Punaがアルバム2作、Tied & Tickled Trioもアルバム2作と、前作からの4年で合計4作がしっかりリリースされている。

特に重要なのはLali Punaだろう。ここでのマーカスは、バンドメンバーとしてSSW. Valerie Trebeljahrの「歌」を活かそうとする立場となった。それがマーカス自身が歌うThe Notwistにどう活かされたか。前作に寄せられたインタビューをひとつ引こう。

──「Chemicals」のような曲では、これまでになくあなたの声が前面に出ています。自分の声をもうWall Of Soundの中に隠すことができなくなったとき、どんな感じだったか覚えていますか?

ああ、それは大変なプロセスでした。正直、あまり好きじゃなかった。以前は僕ら、ハードコアやDinosaur Jr.、それにNeil Youngくらいしか聴いていなかったから。そういう音楽では、いつもヴォーカルを小さくしたがるんだよね。それが『Shrink』から、ポップなものもいいと思うようになって、新しいお手本が出てきた。たとえばPet Shop Boysとか。

laut.de


ポスト・ハードコアをやっていたバンドがPet Shop Boysの影響を受けるとはなんともファニーだが、要は「歌もの」の意識が芽生えたということだ。Lali Punaの活動を経て、その視線は更に深まったと想像する。

『Neon Golden』は「インディロックとエレクトロニカの融合」と評されることが多いが、自分としては本作は第一に「歌」の、第二に「電子音楽」のアルバムである(付け加えておくと、『Shrink』は第一に「電子音楽/ジャズ」、第二に「歌」)。そこが正に、Radiohead『Kid A』と並べられた一番のポイントだろう。長くなったが、再生していこう。今回は全曲レビュー。


tr.1 One Step Inside Doesn’t Mean You Understand

あらためてファーストからずいぶん遠くに来たなと感じる。最初はチェロのピチカート音だろうか?室内楽のようなストリングスアレンジで楽曲が進行し、マーカスと伴奏者だけがいるような生舞台の景色をイメージする。しかしプログラミングのリズムトラック、ピアノの伴奏、ヒスノイズが加わっていき、イメージは霞んでいく……

すぐに戻ってこないように、靴を準備して
すぐに止まらないように、心を準備して
あなたは私たちと一緒に歩くことはできないよ
一歩近づいたからといって、理解したことにはならない
一歩近づいたからといって、僕を手に入れたことにはならない
アルバムが始まる。


tr.2 Pilot

名曲、代表曲。彼らは早速、2000年型The Notwistのバンドサウンドを披露している。ポストグランジの気配、「Day 7」にあったような歪みも消え去った。ギター、ベース、ドラムはミニマルファンクの雑味のなさで、無機質でひとつの無駄もないフォルムを形成。OGRE YOU ASSHOLEでいうと初期作と『100年後』くらいの演奏目線の違いがある。

ギターはオクターブ奏法を基調とし、多くを弾いたり重ねたりはせず、休符の多いキーボードともに端的な骨格を築いている。ベースラインが素晴らしい。特に間奏の生演奏らしいグリッサンド、リムショットによるダブ(レゲエ)的なリズムアイデアは白眉。SongsterrのTabを張っておこう。一方ライブ版ではテクノに旅立ってからサビに帰ってくるので、かなり自由度が高い曲でもある。これはサビ(ジャズでいうテーマ)の強さゆえだろう。

一番最初に好きになった曲なので思い出深い。当時の自分としては、低体温ながら明確にサビを感じられるのが魅力的だった。クールな「ポップ」ソング、そんなイメージそのものだった。サビコーラスと裏メロのギターが大好きだ。「Could be enough~♪ If only we are pilots、once a day(テーテテーテーテテー)♫」。


tr.3 Pick up the Phone

先のPet Shop Boysの引用、そして「歌のアルバム」という印象は本曲のイントロが象徴する。『Shrink』なら、このビートを最初に提示しただろう。しかし本作では、ビートより先にパッドの和音が曲の雰囲気を決定づける。この順番の違いは、何気なくも大きいと思う。このメロディがマーカスでもミヒャでもなく、Gretschmannによってもたらされているのは驚きだ。

ギターとシンセパッドのペダルトーン(的な音使い)で緊張感ある響きが構築されている。F#11 - G#m9 - E(+11)とでもいおうか。コーラス明けのトランペットが良い。グリッチノイズを含め、Hood『Colod House』を連想する。そしてPostal ServiceでなくDntel『Life Is Full of Possibilities』の世界に近い。

ファニーなアニメMVでも知られ、この歌詞に相応しいものになっている(公式でアップロードできないのだろうか)。アルバムのヒットに合わせ当時それなりに放映されたらしく、コメント欄の懐古をながめるのも面白い。

この場所を知ってるよね
この憂鬱を知ってるよね
前にもここに来たことがある
人生がループしている時、あなたは扉の無い部屋にいるんだ

電話を取って、僕に答えてくれ
僕は今日、君の過去から抜け出すんだ


tr.4 Trashing Days

バンジョーの弾き語りに、IDMを通過したビートが入り、サビの和音を担うのがホーンのスコアという、何段階か踏まないと辿り着けない境地の曲。だが、前作から追ってきた方はすんなり納得できるだろう。こういうバンドである。『Shrink』を思い出すホーンの通り、作曲者はもちろんミヒャ。

ニューオーリンズの伝統楽器が電子音楽と溶けあう……この辺は、穿ってみると「批評家受けが良さそう」と感じたりする。ある種の『Amnesiac』というか。「organic vs. electronic」とか「伝統と未来」みたいな書き筋だ。そういう批評軸も良いが、その音が曲としてどうかが自分は気になるし耳を引く。ここでは、アコースティックギターより中音域の鳴りが少ないバンジョーゆえに、このグリッチビートと歌が存分に鳴るスキマがしっかり確保されている。更にサステインのないバンジョーゆえに、コーラス部がコードストロークでなく、ホーンが全音符で入ってくる設計図になった、とも言えるだろう。


tr.5 This Room

最高にクールな曲。ただ自分はライブ版の方に強く頭を焼かれているので、詳しくは『Superheroes, Ghost-ViIIains + Stuff』で。

この曲も、ダブ由来と思われる休符を効かせたベースラインが素晴らしい。ビートスイッチにも注目。これは『Pilot』同様、本作が「歌」によったからこその発想だろう。核となる歌(コード進行といってもいい)が変わらなければ、外側はどうイジ繰り回してもいいのである。本曲だけ作曲クレジットが4人全員なのは、おそらくこうしたビートスイッチ含め全員のアイデアを盛り込んだからだろう。……といったところで、Four tet & Caribouが、原曲の「核」を完全に無視した素晴らしいリミックスを提供している。素材を利用しただけでゼロから再構築した、2002年の時頃に相応しいRemix。独立した、しかし原曲がないと生まれなかった名曲だ。デラックス版に収録。


tr.6 Solitaire

これも設計図がすごい。右から荘厳なストリングスが、左からグリッチビートが来たかと思えば、サブベースがドンと中央に鳴り、ストリングスがマーカスの歌に代わる。レコーディング15ヶ月の実験・試行錯誤を感じる。無茶苦茶なバックトラックで歌い出す様は、ポストパンクのラディカルさすらある。

このあたりで、『12』以前に毎回あったインストたちを思い出す。あの時は歌えなかった・歌おうとしなかった。今は、このトラックですら歌う。作曲者はアーチャー兄弟でなくGretschmann単独。このメンバー加入がバンドの可能性を広げたんだとあらためて感じる。


tr.7 One with the Freaks

堅苦しい話はおいて、最高のギターチューン!これも代表曲でしょと言い切っておく。この曲だけが唯一のマーカス単独の作曲クレジットである。ファーストなどにあったDInosaur Jrたちの面影、そこから10年をへた成熟、変わらぬ蒼さが宿っている。これを映画の挿入歌にした人はすごくセンスがいい(草野感)。

ひざまずいて
合図を見逃して
道標を見逃して
全ての道も閉じて
突然、君もフリークスの仲間入りさ

そんな経験がある?
何もかもメチャクチャになってさ
そんな経験が・・・

tr.8 Neon Golden

一気に空気が冷え戻る。認めるが「One with the Freaks」だけ本作で浮いている(でも嫌いな人はいないはずだ)。

ここにきての無骨なギター録音。ワンコードブルーズに近いフレージングのため、Radiohead「I Might Be Wrong」を連想する人もいるだろう。……ここまで、自分すらいくつかRadioheadに隣り合った(そのものではない)ものを連想するのだから、批評家筋からすると『Kid A』『Amnesiac』の衝撃に、また全く違う形でそのような傑作が飛び込んできた!そんな当時の相乗の衝撃を想像する。実態は、ファーストから見てきたとおり、もうひとつ偉大な足取りのバンドがいたという話である。

ここではクラブトラックを離れ、複数のサンプルをかき集めて、ラーガのような陶酔感に至ろうとトラックを組んでいる。本作ではこの曲が一番「プロトどまり」の手触りがする。


tr.9 Off the Rail

バロックポップらしいストリングスアレンジ。Owen Pallettを浮かべる人もいるのでは。

本作は「歌」の、「電子音楽」の、その次には「管と弦」のアルバムだと思う。その要素は「西洋的」とも言えるが、こうした言い方や包め方は好きじゃない。The Notwistにおける「管と弦」は、さかのぼれば『12』の表題曲で顔を出したのだ。それをTied & Tickled Trioの面々──つまりWeilheimの音楽シーンとともに育んできた。本作はその輪を更に広げた結実である。


tr.10 Consequence

名曲、代表曲2。個人的にはAlbum Leafの「Always For You」、Prefuse 73の「7th Message 」に並ぶ名曲である。楽曲の進行自体は非常にオーソドックスなもので、Dm→B♭→F→C。裏でひっそり鳴っているが、アコースティックギターだけで弾き語ると4畳半フォークに近い。これを名曲たらしめんとしているのが、まずイントロから延々ペダルトーン的に反復する半音階フレーズ、E, F, Cのアンニュイなシンセの響き(大大好き)。そしてR&B的なリズムトラックと、モノクロームのピアノによる全音符だ。ギターバンドの発想で構築しなかったことが名曲に繋がったといえる。

感動的なコーラス部「Leave me paralyzed, love」で辿り着くのが、B♭→C→Am→Dm…王道進行Ⅳ→Ⅴ→Ⅲ→Ⅵ。死ぬほど2000年代以降のJ-POPがこすってきた進行だが、この曲の感動に勝るものはない。

祈るように繰り返される「Leave me paralyzed, love. Leave me hypnotized, love.」。美しい日本語に訳すのは難しいフレーズだ。しかし意味は汲める。「paralyzed(麻痺)」は身体が動かなくなる、「hypnotized(魅了)」は心が奪われることだ。だからこれは、「愛する人に身も心も捧げさせてほしい」という歌だ。しかし同時に「あなたは(僕は)この映画にいない、この曲にもいない、決して」と歌われる(You’re (I’m) not in this movie, You’re (I’m) not in this song. Never.)。哀しくて美しいエンディングだ。

2026年現在、The NotwistのSpotify最多再生回数を誇るのはこの曲である。オープニングのフレーズが頭の中でよみがえる……

One step inside doesn’t mean you’ll understand.
One step inside doesn’t mean I’m yours.
一歩近づいたからといって、理解したことにはならない
一歩近づいたからといって、僕を手に入れたことにはならない

それでも最後には、『Consequence』(結果)のフレーズがリフレインするのである。
「Leave me paralyzed, love. Leave me hypnotized, love.」


・・・・・


(そんなこと思ってる人はいないだろうが)The Notwistは偶然に名盤『Neon Golden』を手に入れた訳ではない。ポスト・ハードコア、メタルバンドだった彼ら──マーカスは当初その歌声を潜ませていたが、『12』で自身の歌を確立した。そして『Shrink』にてエレクトロニカと自身の歌声の配合が見事に成功し、Lali Punaでの「歌もの」へのアプローチを踏まえたことにより、この名盤に至った。そういう風に思う。

そして、彼らの軌跡の全てがこの一枚の為にあった訳でもない。そこには深い歴史があり、それは続いていくのだ。自主レーベルAlien Transistor設立、Anticonとの邂逅、The Notwistの歩みは続く。
(続)



また、『Neon Golden』には制作ドキュメンタリーがある。

この記事が気に入ったら:
☆

コメント

まだコメントはありません