The Notwist『12』
- 発売日:1995年5月
- ディスコグラフィ:3rdアルバム
- 一般的な評価:過渡期の作、まだブレイク前だが一部から注目を集め始める
- 前2作とは録音スタジオ、エンジニアも刷新しての再出発作
- 盟友「Olaf Opal」との初アルバム
- ハードコア、メタルからの離脱、今にいたるThe Notwistへの分岐点
- USでも本作からリリース開始
- 音楽性はサッドコア、ノイズロック、ギターポップ、インダストリアル、メタルと散乱
トラックリスト
評価は黒字 < 太字 < 赤字 < 赤太字
下線付きはリードトラック、★付はベストトラック
| # | 曲名 | 作詞 | 作曲 | 編曲 | プロデュース | 時間 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | ☆Torture Day | Markus Acher | Markus Acher | The Notwist | The Notwist(?) | 6:10 |
| 2 | My Phrasebook | 〃 | The Notwist | 〃 | 〃 | 2:00 |
| 3 | ☆Puzzle | 〃 | Markus Acher | 〃 | 〃 | 3:44 |
| 4 | M | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 4:12 |
| 5 | Noah | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 5:30 |
| 6 | My Faults | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 3:14 |
| 7 | The String | 〃 | 〃 | 〃 | 〃 | 4:30 |
| 8 | Instr. | 〃 | The Notwist | 〃 | 〃 | 2:49 |
| 9 | ★12 | 〃 | Markus Acher | 〃 | 〃 | 6:55 |
バンドがこれまでと違う足取りを進みだす時、どんな要因が考えられるだろうか。レーベル移籍、セールス的な問題、メンバー変更……。The Notwistの場合はふたつある。
ひとつは「技術の獲得」。環境の変化と言ってもいい。彼らは「Olaf Opal」というテクニカル面の盟友と出会ったのだ。Olaf Opalは、当時ドイツのパンク/クロスオーバー系のDIYシーンでBoxhamstersやSpermbirdsを手がけていた、駆け出しの人物だった。マーカス曰く、初期2作は「録音の知識が全くなく、ヘヴィメタル系のスタジオに行き、エンジニアの全ての録音とミックスを任せた」[1]。この出会いが、バンドを「メタル」直系から軌道修正し、より広く自由に、その可能性の視野を広げた。
もうひとつは「他領域での実験」。本作に至る前の1994年、マーカスは別プロジェクトTied & Tickled Trioを立ち上げた。後年ジャズに向かっていく名義だが、この時点ではまだ単なるポリリズムの実験隊だったようだ。その成果は、リズムアプローチの面よりむしろ、ジャンルにとらわれない自由な発想の創作アプローチとして関与したと想像する。
The Notwistの姿が、変わり始めた。
明らかに前2作と全く空気が異なる。渇ききったスネア、ささくれだったギター。これは言うなればサッドコアに近い名曲である。後年の姿を知っている身からすると、「The Notwistの目覚め」と言いたくなる。コード選びのテンションノーツも、The SmithsやRadioheadなどに近いマイナーキーへのadd9(Bm7(9))、Sonic YouthやKing Kruleに通じる濁った半音階のぶつけ(GM7(11))……とにかく、ハードコア・パンクでもメタルでもない。ものすごく身も蓋もない言い方をすれば、陰湿ゲフン、暗く抒情的な響きの導入だ。ヨーロッパ的と言ってもいいだろう。
歌詞世界も強烈に響く。
何より、曲が歌声に完璧にマッチしている。本曲でマーカスは自身の歌を手にした。I celebrate your skin(君の肌を祝う)
I celebrate you’re in(君がそこにいることを祝う)
I celebrate one day(僕はある一日を祝う)
Call it torture day(それを拷問の日と呼ぶよ)
・・・・・
前2作からの創造力の広がり(ロック編)
過去二作と同じ路線の曲でも、変化はいたるところにある。tr.2「My Phrasebook」はまだロック然としているが、音像が変わっってグランジ的なザラつきが強調されている。途中の刻みも、メタルのそれでなくノイズのそれとして聴きとれるだろう。tr.4「M」もリフや展開は過去二作を引きずるものだが、アウトロはインダストリアルの感触である。特にtr.7「The String」の16分の乾いたリズムと金属的な歪みは、BUCKTICK『Six/Nine』『COSMOS』あたりを連想する。その名の通りのインストtr.8「Instr.」も面白い。ギタープレイだけみると変わりないが、ドラムを前面、ギターを後ろにひっこめてかき鳴らすなど、これまでより格段に録音の発想力が広がっている。ドラムも打ち込みループを思わせるプレイだ。
と言いつつも、やはりこの時期で大好きなのはド直球ギターポップである「Puzzle」である。なんて分かりやすい「疾走感」。シューゲ風に雪崩れ込むコーラス部の「All I have is yours(僕が持っているものはぜんぶ君のもの)」はどこまでも青く、そのノイズはナイフのように光っている。
tr.6「My Faults」は何だかスマパン「1979」を思い出すイントロだが、まだ本家はリリース前だ(メロンコリーは同年10月リリース)。ポスト・グランジの空気感を共有した曲と言えるだろう。
・・・・・
前2作からの創造力の広がり(非・ロック編)
今後のThe Notwistの軌跡として重要なのは下記2曲だろう。
きたる『Neon Golden』直系の音。生音の乾いたスネアが印象的な「Torture Day」に対して、こちらは電子音の断片のようなループと簡素なリズムトラックによって、より2000年代のエレクトロニカの空気を先取りした仕上がりになっている。コーラス後の、息が詰まる緊張感をもった音色(2:00~、3:35~)は、解析するとC#-D-B-C#。コード未満の、ギターでしか鳴らさないだろう「ざわつき」の不協和音である。
そしてベストトラックはこの曲だろう。セカンドからここまで飛躍することを誰が予想できるだろうか?「Torture Day」と「Noah」を足して2で割った感覚があり、生バンド由来の、ラップトップ由来の、ふたつの異なる「冷たい」質感が同居している。本作以降の彼らは生演奏の質感から離れていくため、その意味でも無二の、このタイミングでしか録音されなかっただろう一曲だと思う。間奏から入ってくるバスクラリネットやチェロの絡みにRadiohead『Amnesiac』を見るのは早計だが、『Kid A』と『Neon Golden』が並ぶ実際の未来を踏まえればちょうどいい幻視だ。
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本作は現在に至るThe Notwistの第一歩だ。そしてまだ完成しきっていない放射状の記録でもある。確かにアルバム一枚でみると統一感には欠ける。だが、この一枚に収められた可能性は今も多くのリスナーを揺さぶるはずだ。
最後に、本作からクレジットに登場し、今後重要人物となる2人の名前を挙げておこう。「Noah」でゲストサンプラーとして紹介されているMartin Gretschmann。そして録音クレジットにいるMario Thaler。The Notwistのもとに人が集まってきた。そして彼らは代表作を手にする──前に、もうひとつの傑作に至る。次作、『Shrink』。
(続)
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