音楽

NEU!『NEU! 75』

NEU!『NEU! 75』

トラックリスト

評価は黒字 < 太字 < 赤字 < 赤太字
下線付きはリードトラック、★付はベストトラック

# 曲名 作詞 作曲 編曲 プロデュース 時間
1 ISI Neu! Neu! 同左 5:06
2 Seeland Neu! Neu! 同左 6:54
3 Leb' wohl Neu! Neu! 同左 8:50
4 ★Hero Klaus Dinger Neu! Neu! 同左 7:11
5 E-Musik Neu! Neu! 同左 9:57
6 After Eight Klaus Dinger Neu! Neu! 同左 4:44
Review 87 / 100

セカンドアルバムリリース後、2人は明確に各々の道を歩み始めた。ミヒャエル・ローターはClusterの面々と合流してHarmoniaを結成。よりアンビエントな方向性を目指していった。一方でクラウス・ディンガーはよりストレートなバンドサウンドを志向し、地元デュッセルドルフでLilac Angels──プログレやクラウトロック文脈のカウンターとしてストレートなロックを志向したバンド──のプロデュースを務めた。

もはや袂を分けていた中で、最後に作り上げたのが本作『Neu! 75』である。制作上の折衷案として、彼らは明確な役割分担を行った。A面はミヒャエルの、B面はクラウスの志向を全面に反映するものとしたのだ。これが見事に功を奏し、Neu!屈指の完成度を持つ傑作が完成した。


A面(ミヒャエル)を聴く

tr.1 ISI

自分はこの一曲目を聴いた時に強く感動した。「Hallogallo」にあった心地よいグルーヴそのままに、ある種の「ポップソング」として完成していたからだ。これも自分の中で「いかにもサードアルバム」という感じがする。ファーストで蒔いた雛形たちが、洗練を経て完成した──コツを掴んで量産できるようになったともいう──そんな楽曲たち。

この辺は塩梅というか、洗練された分だけ「魔力」は減っているとは思う。一番魔力を持っているのはやはりHallogallo、次いで前作のFür immerだろう。本曲は特に、良くも悪くも旋律が明確すぎる。ただここではメロディだけでなく、Harmoniaを踏まえただろう空間的なアプローチにも注目したい。両翼そろってのMichael Rotherである。

にしても、ミヒャエルの音感覚と、クラウスのビートは本当に良いコンビだ。黄金律を感じるリードトラック。

tr.2「Seeland」も「Weissensee」を思い出させる佳曲だが、次曲を取りあげたい。

tr.3 Leb’ wohl

波の音が美しい、とても美しくて思慮深いアンビエント・バラード。これこそまさに、ファーストの怪曲「Lieber Honig」で描きたかった景色だったんじゃないか?そう思わずにはいられない。ここでのボーカルもあの曲と同じクラウスだが、ある種のポストロックのボーカルのように、しっかりと楽曲に空気感を吹きこめている。ファーストの幻視は、ここに結実したのである。


本アルバムで割と泣かせるのは、ミヒャエルが司ったA面のドラマーだけがクラウスであり、そのA面を締めるのもクラウスのボーカル曲という点だ。そして、本曲のタイトルは「さようなら」。感傷的な見方だとは分かっていても、何かを感じずにはいられない。美しい3曲20分間の組曲である。

Neu!におけるミヒャエル・ローターの旅路はここで終わった。
アルバムはクラウスのB面に移る。


B面(クラウス)を聴く

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tr.4 Hero

そしてこの開幕!自分は「Hero」もNeu!の代表曲だと確信している。「プロトパンク」と広く評される曲だが、その通りだ。クラウスの衝動に任せた歌唱は、クラウトロックやNeu!の大ファンであるSex Pistols / P.I.Lのジョン・ライドンのボーカルスタイルにも大きな影響を与えただろう。ジャーマンロックに傾倒していた頃のDavid Bowieが『Heroes』と題した影響源でもあり(同収録曲「V-2 Schneider」はKraftwerkのメンバーFlorian Schneiderに由来している)、このクランチギターのカッティングに初期StereolabはもちろんThe Notwistなどを見出すこともできる。Neu!の影響は本当に幅広い。

ちなみにB面のドラムを担当するのは、クラウス・ディンガーの弟、トーマス・ディンガーである。プレイ自体はクラウスを意識していると思われる。

tr.5 E-Musik

堂に入った「いつもの」演奏だが、エフェクト捌きは『Neu! 2』と比べて非常に手慣れており、テープの再生速度をいじっただろうドラム音の磨かれ方といい、ちゃんと進化しているのが分かる。

5:40以降に差しこまれるキャッチーなピアノは恐らくミヒャエルによるものだが、素晴らしい効果をもたらしている。本作はソロアルバムのように制作されたが、お互いがお互いの楽曲を高め合っているのだ。結局彼らが復縁することはなかったが、Neu!の二人は間違いなく奇跡的なコンビだった。

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A面/B面と書いたけれど──自分はこの曲がクロージングトラックだと思っている。

クラウスが司るB面「E-Musik」のアウトロにて、その世界は波音に導かれて、ミヒャエルが司るA面「Seeland」のリフレインを呼び起こす。やはり感傷的になってしまう。本当に感動的なエンディングだと思う。

しかしNeu!がそんな「完璧な終わり」で満足するはずがない。

彼らはしっかり「次への宣誓」を用意している。

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tr.6 After Eight

偉大なるNeu!の軌跡のフィナーレを飾る楽曲は「After Eight」である。最後くらい歌詞を見てみよう。Neu!の歌っていることなんて普段意識しないだろうが、海外サイトを伺うにここではこう歌われている。

Help me through the night, help to see it all
(夜を越えさせてくれ、すべてを見るために)
Help me see the sun, help me to get up
(太陽を見せてくれ 立ち上がるために)

力強く、光へ、その先へと進もうとするような言葉だ。ここで、ファーストで引いたクラウス・ディンガーの言葉をもう一度「反復」しよう。

Neu!のビートとは──

「それは本質的に人生、つまり動き続け、前進し、動き続けることについてのものだ」

The Independent

クラウトロックの反復は、その場で停滞するためではなく、前進するための躍動だ。Neu!が偉大なのは、未来だったからではなく、未来を見ようとしていたからなのだ。

Neu!は最後まで、間違いなくNeu!で在り続けたのである。

(了)

Neu!の三作後に辿るなら、やはりミヒャエル・ローター、クラウス・ディンガーそれぞれのソロワークを辿るのが一番だろう。

Michael Rother / Flammende Herzen(1977)

ミヒャエルのソロワークス。アンビエント的なセクションも多いが、ドラムはCanのDr. Jaki Liebezeitが担当しており(!)、リズムが入ってくると一気にNeu!の残像が全面に出てくるあたり、嬉しくも、複雑な気持ちにもなる。セカンド以降で垣間見せていたメロディセンスもすっかり板につき、なんだかある時代のフュージョン的なメロさまで感じられる。『Neu! 75』(A面)から分かりやすく自身の嗜好を抽出して伸ばした、ザ・ソロアルバムという一作。これを聴くと、ミヒャエルがNeu!のどこを担っていたかが理解る。ちなみに自分が一番好きな曲は「Karussell」。

La Düsseldorf / La Düsseldorf(1976)

クラウスのソロワークス。ドラムは引き続き弟のトーマス・ディンガーに託しており、クラウスはギターとボーカルに徹している。1曲目を聴けば分かるが、こちらも『Neu! 75』(B面)から分かりやすく自身の嗜好を抽出して伸ばした、ザ・ソロアルバムという一作(2)。ただ楽曲は非常にパワフルなので必聴だ。ちなみにバンドにキーボードが2名いるのだが、リードトラックは「Silver Cloud」は2人がかりでミヒャエルを補完するような感じがして、謎の後方訳知りおじさん顔になってしまう(気のせい)。個人的にはクラウスの囁きボーカルを引き継いだ「Time」に注目したい。最後のタイトルコールが滅茶苦茶カッコイイ名曲

Brian Eno + Cluster / Cluster & Eno(1977)

ブライアン・イーノがアンビエントに至る軌跡を振り返っておこう。本人が語るように、それはミヒャエル・ローターとClusterが参加したHarmoniaから始まり、本作での共作が続き、そして『Ambient 1: Music for Airports』(1978)に辿り着くのである。Neu!から間接的に広がった動きとして押さえておきたいところ。自分はClusterだと『Sowiesoso』か本作を推したい(余談ですが『Grosses Wasser』はいまだシックリきていないリスナーです。。この作品からの影響を公言している音楽はみんな好きなのに。)。

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Conny Plank(人)

ファーストの記事で一瞬ふれた人物名。ここまで取りあげたNeu!3作品全てのプロデューサーであり、かつ上記3作、つまりミヒャエルとクラウスのソロワークス、およびBrian Eno + Clusterのプロデュースを手掛けている。 初期Kraftwerkも、HarmoniaもAsh Ra TempelもGuru Guruもこの人であり、端的にクラウト・ロックを定義する礎となった偉人である。さらに言えば、Ultravox『Vienna』やKilling Joke『Revelations』、DAF『Gold und Liebe』や『Für immer』(いうまでもなく『Neu!2』1曲目のタイトルだ)、Phewのプロデューサーも手掛けてあり、つまりはニューウェーブ上の偉人でもある。ちなみに、Abletonのレコーディング特集記事にて「King Tubby」「Lee “Scratch” Perry」の次に並んでいるのが「Conny Plank」でもある。

ともかく、彼の録音クレジットを見れば全ては理解るのでぜひ眺めてほしい。この人を知ることで、Neu!の、クラウト・ロックの、70年代から80年代への音楽そのもののセンスの変遷すべてへの理解が深まるはず。

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エピローグ

さて、本作でNeu!の物語は一度終わったのだが……実は続きもある。それは『NEU! ‘86』というのだが、今回の更新はここまでとしよう。一言だけ添えておくと、色んな意味で本当にNeu!らしいエピローグ作品である。

それではまたいつか。